黒洞ひかりのブログ

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対角型の計量テンソルのクリストッフェル記号

クリストッフェル記号(添字 $i$ で縮約をとっている)

$$ \Gamma^ n _ {\, \mu \nu} = \frac{1}{2} g^ {ni}(g _ {\nu i, \mu} + g _ {\mu i, \nu} - g _ {\mu \nu, i}) $$

一般相対論でしょっちゅう出てくる基本的な記号のくせに計算するのが意外と面倒なやつである. そもそも定義に添え字が多くて覚えるのが面倒で, しかも添字は3つあるせいで計算が面倒と, やっかいなものである.

しかもテンソルっぽい形をしているのにテンソルではないという. テンソルを多次元配列みたいなものとか, 行列みたいなものと考えていると, まず間違いなく理解できなくて積んでしまうポイントだろう.

Note:

詳しくは解説しないが, もしこれがテンソルだったら座標変換のときに, なんらかの変換テンソルA,B,Cを用いて

$$ \hat{\Gamma} ^ {n} _ {\, \mu \nu} = A^ n _ {\,i} B^ j _ {\, \mu} C^ k _ {\, \nu} \Gamma ^ {i} _ {\,jk} $$ のように変換されるべきである. しかし実際にはそうなっていないのでテンソルではない.

物理学では「座標変換したときにどう変換されるか」に着目してテンソルを定義している. なぜそんな定義をしているのかというと, 式をテンソルで表すとどの座標系を用いても同じ形の式になるからである. これは一般相対論の原理にも関わる重要な性質である.

クリストッフェル記号を計算しよう

今回はタイトルの通り, 対角成分以外の成分が0である計量テンソルの場合に限ってクリストッフェル記号を計算する. このとき, 式(1)の2階反変計量テンソル $g^ {ni}$ は $n\neq i$ のとき0だから, クリストッフェル記号は $$ \Gamma^ n _ {\, \mu \nu} = \frac{1}{2} g^ {nn}(g _ {\nu n, \mu} + g _ {\mu n, \nu} - g _ {\mu \nu, n}) $$ となる. ただし式(2)の添字では縮約をとっていない.

ここでクリストッフェル記号の添字 $n. \mu, \nu$について場合分けをしよう. 考えられるのは次の4つのパターンだ.

添字のパターン 添字の例
(1) すべて同じ $ n = \mu = \nu $ $\Gamma^ 0 _ {\,00},\Gamma^ 1 _ {\,11} $
(2) ひとつの共変添字だけが反変添字と一致 $n=\mu \neq \nu$ $\Gamma^ 1 _ {\,10}, \Gamma^ 2 _ {\,02}$
(3) 2つの共変添字が一致 $n \neq \mu=\nu$ $\Gamma^ 0 _ {\,11}, \Gamma^ 1 _ {\,00}$
(4) すべて異なる $n \neq \mu \neq \nu$ $\Gamma^ 1 _ {\,23}$

この場合分けと, クリストッフェル記号の対称性 $\Gamma^ n _ {\, \mu \nu} = \Gamma^ n _ {\, \nu \mu}$ そして計量テンソルの対称性 $ g _ {\mu \nu} = g _ {\nu \mu}$ を用いると, クリストッフェル記号は意外とシンプルな形になるのである.

(1) すべて同じ $ n = \mu = \nu $

この場合はすぐに計算できる. 下記の式では縮約をとっていないことに注意. $$ \begin{align} \Gamma^ n _ {\, nn} &= \frac{1}{2} g^ {nn}(g _ {nn,n} + g _ {nn,n} - g _ {nn,n}) \\ &= \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {nn,n} \end{align} $$

(2) ひとつの共変添字だけが反変添字と一致 $n=\mu \neq \nu$

今回もすぐに計算できる. 下記の式では縮約をとっていないことに注意. $$ \begin{align} \Gamma^ n _ {\, n \nu} &= \frac{1}{2} g^ {nn}(g _ {\nu n, n} + g _ {n n, \nu} - g _ {n \nu, n}) \\ & = \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {n n, \nu} \end{align} $$ 二行目への変形では計量テンソルが対角成分しか持たないことを用いた. もちろん添字の対称性を用いても同じ結果が得られる. クリストッフェル記号の対称性より $ \Gamma^ n _ {\, \nu n} = \Gamma^ n _ {\, n \nu} $ である.

(3) 2つの共変添字が一致 $n \neq \mu=\nu$

やはり今回もすぐに計算できる. 下記の式では縮約をとっていないことに注意. $$ \begin{align} \Gamma^ n _ {\, \mu \mu} &= \frac{1}{2} g^ {nn}(g _ {\mu n, \mu} + g _ {\mu n, \mu} - g _ {\mu \mu, n}) \\ & = -\frac{1}{2} g^ {nn}g _ {\mu \mu, n} \end{align} $$ 今回も計量テンソルが対角成分しか持たないことを用いた. この結果は前回のものと比較して符号がマイナスになっている.

(4) すべて異なる $n \neq \mu \neq \nu$

この場合は, 計量テンソル $ g _ {\mu \nu} $ の添字は常に異なるため0になる. 下記の式では縮約をとっていないことに注意. $$ \begin{align} \Gamma^ n _ {\, \mu \nu} &= \frac{1}{2} g^ {nn}(g _ {\nu n, \mu} + g _ {\mu n, \nu} - g _ {\mu \nu, n}) \\ &= 0 \end{align} $$

まとめ

上記の4つの場合を表にまとめると以下のようになる. もちろん以下の結果では添字で縮約をとっていないことに注意が必要である.

添字のパターン 添字の例 結果
(1) すべて同じ $ n = \mu = \nu $ $\Gamma^ 0 _ {\,00},\Gamma^ 1 _ {\,11} $ $\Gamma^ n _ {\, nn} = \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {nn,n}$
(2) ひとつの共変添字だけが反変添字と一致 $n=\mu \neq \nu$ $\Gamma^ 1 _ {\,10}, \Gamma^ 2 _ {\,02}$ $\Gamma^ n _ {\, n \nu} = \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {n n, \nu}$
(3) 2つの共変添字が一致 $n \neq \mu=\nu$ $\Gamma^ 0 _ {\,11}, \Gamma^ 1 _ {\,00}$ $\Gamma^ n _ {\, \mu \mu} = -\frac{1}{2} g^ {nn}g _ {\mu \mu, n}$
(4) すべて異なる $n \neq \mu \neq \nu$ $\Gamma^ 1 _ {\,23}$ $\Gamma^ n _ {\, \mu \nu} = 0$

結果のところを見ると, 驚くほどシンプルな形になったのがわかると思う. 上3行は似たような形だし, 添字がすべて異なる場合はなんと0になる. あんだけ計算がめんどくさそうな定義のクリストッフェル記号も, 場合分けをきちんとすることでこんなに簡単な式に帰着されるのだ. もちろんこの結果は計量テンソルが対角成分のみの場合に限るのを忘れてはいけない.

例題: シュワルツシルト計量のクリストッフェル記号

アインシュタイン方程式の一番単純なブラックホール解として有名なシュワルツシルト解を例に具体的に計算をしてみよう.

シュワルツシルト解の線素は次のようになる. $$ ds^ 2 = -(1-\frac{r _ s}{r})dt^ 2 + (1-\frac{r _ s}{r})^ {-1} dr^ 2 + r^ 2 d\theta ^ 2 + r^ 2 \sin^ 2 \theta d\phi^ 2 $$ ここで $ c=1 $の単位系を用いた. また $ r _ s = \frac{2GM}{c^ 2} = 2GM $ はシュワルツシルト半径である. $ G, M $ はそれぞれ万有引力定数と天体の質量である.

このとき計量テンソルは $$ g _ {\mu \nu} = \begin{bmatrix} -(1-\frac{r _ s}{r}) & 0 & 0 & 0\\ 0 & (1-\frac{r _ s}{r})^ {-1} & 0 & 0 \\ 0 & 0 & r^ 2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & r^ 2 \sin^ 2 \theta \end{bmatrix} $$

$$ g^ {\mu \nu} = \begin{bmatrix} -(1-\frac{r _ s}{r})^ {-1} & 0 & 0 & 0\\ 0 & (1-\frac{r _ s}{r}) & 0 & 0 \\ 0 & 0 & r^ {-2} & 0 \\ 0 & 0 & 0 & \frac{1}{r^ 2 \sin^ 2 \theta} \end{bmatrix} $$

である. この計量には $t, \phi$ に依存する成分がないため, $$ \begin{align} g _ {\mu \nu , 0} &= 0 \\ g _ {\mu \nu, 3} &= 0 \end{align} $$ がすぐに言える. また,$r$ による微分を一部抜粋すると次のようになる. $$ \begin{align} g _ {00 , 1} &= -\frac{\partial}{\partial r} (1-\frac{r _ s}{r}) = -\frac{r _ s}{r^ 2}, \\ g _ {11, 1} &= \frac{\partial}{\partial r} (1-\frac{r _ s}{r})^ {-1} = \frac{-r _ s}{(r-r _ s)^ 2} \end{align} $$ では早速上で導いた4つのパターンに沿ってクリストッフェル記号を計算していこう.

(1) すべて同じ $ n = \mu = \nu $

この場合のクリストッフェル記号は次のようになるのであった. $$ \begin{align} \Gamma^ n _ {\, nn} &= \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {nn,n} \end{align} $$ 式(14)(15)より $n = 0, 3$の場合は0になる.また, $g _ {22}$ は $\theta$ によらないので $n=2$ のときも0になる.

結局今回の場合に有限の値を取るのは $\Gamma^ 1 _ {\,11}$ のみとなる. これを計算すると, $$ \begin{align} \Gamma^ 1 _ {\, 11} &= \frac{1}{2} g^ {11}g _ {11,1} \\ & = -\frac{1}{2}(1-\frac{r _ s}{r})\frac{-r _ s}{(r-r _ s)^ 2} \\ & = -\frac{r _ s}{2r}\frac{1}{(r-r _ s)} \end{align} $$ となる.

(2) ひとつの共変添字だけが反変添字と一致 $n=\mu \neq \nu$

この場合のクリストッフェル記号は次のようになるのであった. $$ \Gamma^ n _ {\, n \nu} = \frac{1}{2} g^ {nn}g _ {n n, \nu} $$ 計量テンソルの対角成分を各成分で微分する操作が含まれている.

このときクリストッフェル記号が0になる成分を以下の表にまとめた.

添字 $(n, \nu)$ 理由
(1, 0), (2, 0), (3, 0) $t$ 依存性なし
(1, 2), (3, 2) $\theta$ 依存性なし
(0, 3), (1, 3), (2, 3) $\phi$ 依存性なし

クリストッフェル記号が0でない値を取るのは, $\Gamma^ n _ {\, n1}, \Gamma^ 3 _ {\, 32}$ の2パターンのみである. $$ \begin{align} \Gamma^ 0 _ {\, 0 1} = \frac{1}{2} g^ {00}g _ {00, 1} &= \frac{1}{2}(1-\frac{r _ s}{r})^ {-1} \frac{r _ s}{r^ 2}\\ &= \frac{1}{2}(\frac{r _ s}{r})\frac{1}{(r-r _ s)} \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 2 _ {\, 2 1} = \frac{1}{2} g^ {22}g _ {22, 1} = \frac{1}{2} r^ {-2} \cdot 2r = \frac{1}{r} \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 3 _ {\, 3 1} &= \frac{1}{2} g^ {33}g _ {33, 1} = \frac{1}{2} \frac{1}{r^ 2 \sin^ 2 \theta} \cdot 2r \sin^ 2 \theta = \frac{1}{r} \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 3 _ {\, 32} = \frac{1}{2} g^ {33}g _ {33, 2} &= \frac{1}{2} \frac{1}{r^ 2 \sin^ 2 \theta} \cdot 2r^ 2 \sin \theta \cos \theta \\ &= \frac{1}{\tan \theta} \end{align} $$

(3) 2つの共変添字が一致 $n \neq \mu=\nu$

この場合のクリストッフェル記号は次のようになるのであった. $$ \Gamma^ n _ {\, \mu \mu} = -\frac{1}{2} g^ {nn}g _ {\mu \mu, n} $$ 前回と同様の理由でこれが0でない値を取るのは, $\Gamma^ 1 _ {\, \mu \mu}, \Gamma^ 2 _ {\, 33}$ の2パターンのみである. $$ \begin{align} \Gamma^ 1 _ {\, 00} = -\frac{1}{2} g^ {11}g _ {00, 1} &= \frac{1}{2} (1-\frac{r _ s}{r}) \frac{r _ s}{r^ 2} \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 1 _ {\, 22} = -\frac{1}{2} g^ {11}g _ {22, 1} &= -\frac{1}{2} (1-\frac{r _ s}{r}) \cdot 2r = -(r-r _ s) \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 1 _ {\, 33} = -\frac{1}{2} g^ {11}g _ {33, 1} &= -\frac{1}{2} (1-\frac{r _ s}{r}) \cdot 2r \sin^ 2 \theta \\ &= -(r-r _ s) \sin^ 2 \theta \end{align} $$

$$ \begin{align} \Gamma^ 2 _ {\, 33} = -\frac{1}{2} g^ {22}g _ {33, 2} &= -\frac{1}{2} r^ {-2} \cdot 2r^ 2 \sin \theta \cos \theta \\ & = -\sin \theta \cos \theta \end{align} $$

これでシュワルツシルト計量のクリストッフェル記号はすべて計算が完了した. 添字がすべて異なる場合は0になる.